【図解分析】なぜ儲かる?ドラッグストア業界の仕組みを大手9社の戦略から考察 | 1兆円超えの秘密
街を歩けば必ず見かけるドラッグストア。ウエルシア、マツキヨ、ツルハといった大手チェーンは、小売業界の成長を牽引し、軒並み**売上1兆円超え**を達成しています。なぜこれほどまでにドラッグストアは「儲かる」のでしょうか?
その秘密は、単なる「安売り」ではなく、**高利益率の確保、来店頻度の向上、そして安定した収益源の構築**という、緻密な戦略にあります。
- **高利益率の柱**: PB(プライベートブランド)と調剤薬局
- **高い来店頻度**: 食品の低価格販売と強力なポイント戦略
- ** M&Aとドミナント**: 積極的な出店によるシェア拡大
大手9社の戦略比較!競争激化の裏側
まずは、大手ドラッグストア各社がどのような強みを持っているか、比較表で確認してみましょう。各社の戦略の違いが、収益構造に直結しています。
| 順位 | 企業名 | 連結売上高(百万円) | プライベートブランド(PB)の強み | 価格競争力のあるジャンル | 主な支払い方法の強み |
|---|---|---|---|---|---|
| **1** | **ウエルシアHD** | 1,217,339 | イオングループのPB(トップバリュなど)との連携。 | 調剤薬、ベビー用品、**Tポイント/WAON**(1.5倍デー)。 | **Tポイント**(WAON POINTへ移行予定)、**WAON**。毎月20日の「お客様感謝デー」(Tポイント利用で1.5倍の価値)が強力。 |
| **2** | **ツルハHD** | 1,027,462 | 「くらしリズム」など、高コスパな日用品・医療品PB。 | OTC医薬品、化粧品、**日替わり特売品**。 | **楽天ポイント**、独自の**ツルハポイント**。特定のポイントアップデーがある。 |
| **3** | **マツキヨココカラ&C** | 1,022,531 | 「matsukiyo」ブランド。**化粧品や美容**、トレンド商品に特化。 | **化粧品**、**インバウンド向け商品**、健康食品。 | **dポイント**、**マツキヨココカラポイント**。アプリやクーポンが連動。 |
| **4** | **コスモス薬品** | 964,989 | 食品・日用品のPBを積極展開し、価格戦略の柱に。 | **食品全般**、冷凍食品、飲料。**「エブリデイロープライス」**。 | **基本的に現金のみ**(ポイント・クーポンなし)。 |
| **7** | **クスリのアオキHD** | 378,874 | 食品・日用品でコスパを重視したPBを導入。 | **生鮮食品(野菜・肉など)**、**食品全般**。特売日の安さが魅力。 | **Aoca**(独自の電子マネー付きポイントカード)。 |
この表から見えてくるのは、各社が単なる「薬屋」ではなく、**「利益率の高い商品」と「集客のための商品」を組み合わせたビジネスモデル**を構築している点です。
儲けの秘密その①:高利益率の源泉「PBと調剤」
1. PB(プライベートブランド)による利益率の最大化
ナショナルブランド(NB)商品は、どの店でも買えるため価格競争に陥りやすいですが、PB商品は**自社で企画・開発**するため、原価を抑えられ、高い利益率を確保できます。これが、売上高は伸びても利益が減らない構造を支えています。
**マツキヨココカラ**はデザイン性が高くトレンドに合わせたPBで**客単価**を上げ、**ツルハ**は「くらしリズム」で日用品の**安定収益**を支えています。価格競争の激しい食品ジャンルで戦う**コスモス**も、PBを増やして収益性を守っています。
2. 調剤併設による安定収益の確保
**ウエルシア**など上位チェーンが積極的に進める**調剤薬局の併設**は、利益率を安定させる最大の要因です。調剤報酬は医療保険制度に守られているため、季節や景気に左右されにくく、**安定した収益**を生み出します。また、薬の受け取りついでに日用品や食品を購入してもらうという、**クロスセル効果**も絶大です。
儲けの秘密その②:来店頻度を高める「食品とポイント」
1. 食品の「集客力」を利用した戦略
バナナや卵、牛乳といった**「エブリデイロープライス(EDLP)」の食品**を安く提供することは、ドラッグストアの強力な集客ツールです。食品は消費頻度が高いため、お客様の**来店頻度を大幅に上げます。**
**コスモス薬品**や**クスリのアオキ**は、この戦略を徹底し、スーパーマーケット化することで、日々の食料品の買い物をドラッグストアに集中させています。
2. 強力なポイント・クーポン戦略
**共通ポイント**(T/WAON、楽天、d)と**独自のポイント**を組み合わせることで、顧客の囲い込みを強化しています。
**ウエルシア**の**「ポイント1.5倍デー」**は、**実質33%オフ**という強烈な割引効果があり、顧客は貯めたポイントをウエルシアで使うというサイクル(ウエル活)に組み込まれます。これは、顧客を他店に流出させない非常に強力な仕組みです。
儲けの秘密その③:スケールメリットの追求
最後に、業界の成長を加速させているのが、**積極的な出店とM&A**です。
- **ドミナント戦略**: クスリのアオキのように特定エリアに集中出店することで、配送コストや広告費を抑え、地域でのシェアを圧倒的に高めます。
- **M&Aによる規模拡大**: 企業買収により一気に店舗網と売上を拡大し、仕入れ交渉力を高めて**仕入れ原価のさらなる引き下げ**を実現しています。売上1兆円企業が乱立するのは、このスケールメリット追求の結果です。
ドラッグストア業界は、**「高利益率商品」と「集客商品」を絶妙に組み合わせ**、さらに**デジタルなポイント戦略**で顧客を囲い込むという、非常に洗練されたビジネスモデルによって「儲かる」構造を築き上げているのです。消費者にとっては便利で安く、企業にとっては収益性が高い、まさに現代小売業の成功事例と言えるでしょう。

