台湾有事はなぜ「存立危機事態」なのか？——2025年最新情勢と日本の選択

2025年11月、日本の安全保障政策は歴史的な転換点を迎えました。高市首相が国会答弁において「台湾海峡での武力衝突は存立危機事態になり得る」と明言。これまで「戦略的曖昧さ」を維持してきた日本が、なぜ今、踏み込んだ発言をしたのか。その法的・経済的・戦略的背景を2,500文字で解剖します。

1. 存立危機事態の法的定義と「新3要件」の再確認

存立危機事態とは、2015年の平和安全法制で導入された、日本が「直接攻撃されていない段階」で集団的自衛権を行使するための法的トリガーです。これを認定し武力を行使するためには、厳格な「新3要件」をすべて満たす必要があります。

高市首相の発言は、台湾への武力攻撃がこの「第1要件」に該当する可能性を政府として初めて明確に認めたものとして、国内外に大きな衝撃を与えました。

なぜ台湾の有事が日本の「存立」を脅かすのか。その最大の理由は、日本という国家の生存基盤である「海上交通路（シーレーン）」にあります。

日本の原油輸入の約9割は中東に依存しており、その運搬船の大部分は台湾海峡周辺を通過します。もしこの海域が紛争地帯として封鎖されれば、日本はエネルギー供給を断たれ、発電停止、物流麻痺、産業崩壊という未曾有の危機に直面します。

カロリーベースで食料自給率が38%（2023年指標）に留まる日本にとって、海上ルートの遮断は単なる物価高ではなく、物理的な「飢餓」を意味します。これが「幸福追求の権利が根底から覆される事態」に直結するというのが、高市政権の論理構築の核となっています。

国際法上、日本が他国のために戦う根拠は国連憲章第51条の「集団的自衛権」です。しかし、台湾を「国家」として承認していない日本にとって、法的なハードルが存在します。

安保法制では「密接な関係にある他国」への攻撃が前提です。政府は、民主主義を共有する台湾を実態として「他国」に準ずる存在と位置づけていますが、中国側は「台湾問題は内政問題である」として、日本の介入を内政不干渉の原則違反だと激しく非難しています。

この法的対立は、有事の際に日本が国際社会からどのような支持を得られるか、という外交戦略にも深く関わっています。

台湾有事の際、米軍は日本の基地を使用して対応します。この時、隣で戦う米軍が攻撃を受けているにもかかわらず日本が静観すれば、日米同盟は崩壊します。同盟の喪失は日本単独での防衛能力失墜を意味し、それこそが真の「存立の危機」を招くという連鎖的な思考が背景にあります。

高市政権の狙いは、あえて「存立危機事態」を明示することで、中国側に武力行使のコストを再計算させ、戦争そのものを思いとどまらせる「抑止力」の最大化にあります。

高市発言の影響はすでに実経済に波及しています。中国政府による訪日自粛呼びかけや、戦略物資の輸出規制強化の懸念など、日本経済への逆風も強まっています。安全保障と経済的利益のトレードオフをどうコントロールするかが、現政権に課せられた最大の難題です。